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ゲームマーケット2016秋発表の拙作『ダイスロードレース』、海外版が出ることになったらデザイナーズノートを出そう!という野望をひそかに抱いていたのですが、一向にお声がかかりません…このままでは墓場まで持って行くことになりそうなので、ここで蔵出しさせていただきますね。

こちらは『Board Game Design Advent Calendar 2018』 12日目の記事となります。

『ダイスロードレース』で目指したもの

私が『ダイスロードレース』で実現したかった要素の一つに「逃げ VS プロトンの攻防」がありました。
自転車ロードレースの世界をよく知らない方のために三行で説明しますと、

  • ほとんどのレースでは序盤に数名の選手が先行して“逃げ”を試みる。
  • その他百数十名の選手は“プロトン”と呼ばれる大集団となり、体力を温存しつつレースを進める。
  • レース終盤、本気を出したプロトンが逃げを捕まえ、エース同士の最終決戦となる。たまに逃げが決まる(ゴールまで逃げ切る)こともある。

この「基本的にはプロトンから優勝者が出るが、時々逃げ切り勝ちもある」という点はボードゲームにつきものの ジレンマ としてうってつけで、逆に言うとそれがないとただのすごろくになってしまう重要な分岐点だと考えていました。

ゲームのバランス調整どうしてる?

この記事を読みに来た方の多くは、恐らく自分でボードゲームを制作している、あるいは制作したいと考えている方かと思います。 皆さんは自分がデザインしたゲームのバランス調整ってどうやってますか?

よく聞くのは「テストプレイヤーを集めて遊んでもらう」「プレイヤーから意見をもらい、パラメータ(得点、効果の値など)を調整する」というやり方です。
「このゲームは何百回もテストをして調整したので、完成度には自信があります!」という話も耳にします。
しかし、バランス調整のやり方って本当にそれがベストなのでしょうか?

私はWeb開発者という仕事柄、よくテストをします。
私が尊敬する元同僚の口癖は「テストで品質を上げることはできない。品質は設計で作り込むものだ」でした。
設計、すなわちデザインですね。では、どうやってゲームデザインで品質を作り込んだら良いのでしょうか?

問題を定義する

問題を解決するためにはまず、解決すべき問題を正しく定義 しなければなりません。
当たり前のように聞こえますが、実行するのは結構難しいです。

問題は解決可能でなければなりません。
解決方法を実行できなければなりませんし、解決したかどうかを判定できなければなりません。

「基本的にはプロトンから優勝者が出るが、時々逃げ切り勝ちもある」、この事象をゲームとして再現するために私はこう問題を定義しました。
「プレイヤーが常に『手持ちのダイスを全て振る』という選択をした場合、ゴール手前までに残りダイスは1個になっていること」

ちなみに、『ダイスロードレース』はこんなルールのゲームです。

  • プレイヤーはダイスを3個持ってスタートする。
  • 手持ちのダイスから任意の個数を振って、出目の数まで進むことができる。
  • 出目が6の場合、そのダイスは次回から使えなくなる。(手持ち0個にはならない)

もう少しきちんと知りたい方はこちらのインストをご覧下さい。

問題を解決する

では、この問題を解きましょう。

ダイスを3個振ったときに失うダイスの「個数」の期待値は、1/6 + 1/6 + 1/6 - 1/(666) ≒ 0.5[個] です。
最後の「1/(666)」は「3つすべて6だったら1個戻ってくる(=0個にならない)分」です。ほとんど誤差と言っていいでしょう。

これは、「3D6を2回振ったら期待値的には2個になる」と言いかえることができます。

では同様に、ダイスを2個振ったときに失うダイス個数の期待値を求めてみます。1/6 + 1/6 - 1/(6*6) ≒ 0.31[個]
多少大雑把ですが、これも「2D6を3回振ったら期待値的には1個になる」と言えます。

すなわち、「プレイヤーが3D6を2回、2D6を3回振ってもたどりつかないところにゴールを設定しなければならない」ということです。

では最後にコースの長さを計算しましょう。3D6の「出目」の期待値は10.5、2D6のそれは7、1D6は3.5。
ゆえに、10.52 + 73 + 3.5 = 45.5

『ダイスロードレース』には3枚のコースボードがあり、それぞれ両面が使えますが、合計値がもっとも少なくなる組合せで合計45、もっとも多くなる組合せで合計50としています。これが答えです!

バランス調整の結果を検証する

デザインで作り込んだゲームバランスを検証するのがテストプレイです。
もし私が何か根本的な考え違いをしていて問題設定を間違えていたのなら、想定とは違うゲーム展開が続出するでしょう。

しかし幸いなことにそういうことはありませんでした。
多くのプレイヤーは「6を出さなきゃいいんだろ?」とダイスを振りまくり、次々と力尽きていきました。そして、時々逃げ切るケースが観測されました。
このゲームには他にも「相乗りした場合、自分の出目が良くてもMAXまで進めないことがある」「2~4コストマスの存在により、出目のMAXまで進めない場合がある」など計算しきれない要素があるのですが、基本的なデザインは間違っていなかったようです。

こうして私は、発表後2年経過した今も遊んでもらえる『ダイスロードレース』という代表作を得ることができました。

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お陰様で『ダイスロードレース』は完売し、今年の5月には再版することもできました!
「ルールがシンプル」「インスト込みで15分で終わる」「6人までプレイ可能」とゲーム会のオープニング/時間調整に最適!と評判の『ダイスロードレース』はサイコロ堂様 通販サイトにて販売中です。

あと、海外版はまだ諦めてません。テーマ的に絶対ヨーロッパの方が受けるはずなんです!海外版諦めてません!!(大事なことなのでry)

余談

今回は皆さんに『ダイスロードレース』の解答をお見せしました。

そう、これはゲームデザインだけではなく、プレイングの解答でもあるのです。

1プレイ中、ダイスを3つ振れるのは「基本2回まで」です。そして、それによって合計21前後進めます。
上記を念頭に、どこで勝負をかけるか?コースボードと他プレイヤーの表情をじっくり観察してください。

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