これは、ゲームマーケット2015春にて初出品した自転車ロードレースゲーム『Grands-Tours(グランツール)』のデザイナーズノートです。
本作のゲームデザイナーであるfullkawaが、何を考え、どういう判断でゲームを作っていったかを解説しています。
デザイン目標
本作は「“ダイスを大量”に使って“ガチゲー”を作る」という、相反する要素を両立させることに挑戦した野心作です。
ここでいう“ガチゲー”とは、「プレイヤーの実力が勝負の結果に強く影響するゲーム」という意味で使っています。運も実力のうちとはいいますが、それよりも発想力、判断力、管理能力といったものが重視されるという意味です。
あと、デザイナーが大の自転車ロードレース好きであるため、これをテーマにゲームを作りたかった=「ロードレースの世界を可能な限りフレーバーとして取り込む」という目標もありました。
初期の形
上記二つの目標は、多数ある目標の一つとしてそれぞれ、fullkawaの中にありました。
その2つが結びついたきっかけは、実際にダイスを大量に購入して目の前にぶちまけてみたときに「あ、これ、ロードレースのプロトン(≒集団)に似ているな」と思ったことです。
それら2つが結びついたときに、基本メカニクスを「競り」とすること、勝負を決するときにダイスを振るのではなく(それだとまさに“運ゲー”なので!)あらかじめ振っておいたダイスを賭けていく形式にすることまで、ほぼ必然的に決まっていきました。
世間一般的には、レースゲームというと選手コマがあってそれを手札やダイスを使って進めて…という形式が多いようです。(このゲームを作ってから色々調べて知りましたw)
しかし、fullkawaにとって自転車ロードレースとりわけステージレース(≒グランツール)とは「選手というリソースをどのステージにどれほど配分すれば最高の結果を得られるか」を競うスポーツだという認識です。そのため「競り」「リソースマネジメント」といった要素は必然だったのです。
仕様設計
デザイナーによって人それぞれかとは思いますが、fullkawaの場合、開発初期に製品構成を検討します。
本作では「ステージカードが21枚」「オリジナルダイスがプレイヤー1人あたり9個」といった仕様がフレーバーから、これも必然的に決定しました。
そして、自分のこれまでの頒布実績。1000円のゲーム40個がなんとか完売する程度。
オリジナルダイスをメーカー生産?するのは明らかに無謀です。
選択肢は、ブランクダイスにシール手貼りの一手。それをプレイヤー人数×9個?大量生産できないのも明らかです。
こうして、「製品版+フリー版のフリーミアムモデルとすること」が決定し、フリー版のコンポーネント調達を考えると「トランプ+通常の6面体ダイスでプレイできること」といった仕様まで必然的に決まっていきました。
ゲームデザイン上の分岐点
以下の解説は、本作の具体的なルールを知らないと理解しづらいかもしれません。
『Grands-Tours』のルールは下記マニュアルをご覧ください。
Grands-Tours マニュアル
[1]か[6]か
『Grands-Tours』ではダイスを振って[1]が出ると、それは使用することなくグルペットエリア(≒使用済みエリア)へ移動となってしまいます。これは[1]にするか[6]にするかというデザイン上の選択がありました。確率的にはどちらも1/6です。
fullkawaは[1]を選択しました。
[1]をプレイから除外すると、最小値[2]と最大値[6]のパワーバランスは1:3です。
一方、[6]にするとそれは1:5となってしまいます。
ダイスを振ることによる結果のバラツキを抑えるために、[1]を選択するのは必須でした。
[2][3]が弱すぎる
テストプレイをしていて根強かった不満は「ダイスロールで[2][3]がたくさん出ると勝負にならない」というものでした。
これはダイスを振る以上仕方ないことですが、デザインの工夫でうまく活用できないか?
そこから出てきたのが、連番(例:[2]-[3]-[4])で活用する【トレイン】です。
これだけでは足りないと言うことだったので【パス】をするときに同じ目2個を処分できるようにもしました。
スタート時に振り直しができるルールは最初から用意していました。
しかし、これでもまだ足りないという意見が…ゲームデザインはムズカシイですね。
三賞ジャージダイスあれこれ
初め、三賞ジャージダイスはありませんでした。フリー版と同じく、マーカーの移動だけだったのです。
その後、ダイス化し、選手ダイスとの入替ルールを導入しました。
これは手順がスマートでなく、テストプレイでの評判もよくありませんでした。
知恵を振り絞ったのですがうまい落としどころが見つからず、最終的にフレーバー優先で押し通しました。
総合時間賞ダイスの[7]も同様です。
これを組み込んでしまうと特殊処理が発生し、ルールが複雑化します。本来なら採用すべきではないのですが、マイヨジョーヌ(総合時間賞ジャージ)を着た選手が実力以上の力を発揮する“マイヨジョーヌマジック”を表現する方法として最適だと思いました。
三賞ジャージはグランツールの華であり、本作においては勝利条件そのものです。 この辺りの判断は、フレーバーを最優先しました。
採用を見送った要素
一時期、ドーピングルールを真剣に検討していました。これは、ドーピングカウンタを引き取ることでダイスので目を修正することが出来るルールです。ドーピングカウンタが多くなるとドーピングチェックにかかりやすくなり、選手ダイス追放のリスクが高まるというものです。
多くの人にとってドーピングは不快な印象を与えるため、導入するなら選択ルールかなと思っていましたが、他の要素が複雑化してきていたこともあり最終的に採用を見送りました。
まとめ
こういった感じで、fullkawaにとってゲームデザインとは、フレーバーや諸々の制約から自動的に決まる部分がベースにあり、それ以外の部分をテストプレイで調整していくというものであるらしいです。
いやあ、振り返ってみると自分のこととはいえ、興味深いですねw